運動・変形・ひずみ¶
基準配置と現配置¶
配置の定義¶
物理量を「いつの形」を基準に記述するかを区別するため,本マニュアルでは 2 種類の配置を用いる.
- 基準配置(reference configuration):解析開始時点(時刻 \(0\))の変形前の形状(初期配置とも呼ぶ).基準配置内の点を物質座標 \(\boldsymbol{X}\) で表し,体積を \(V\),表面を \(S\) とする.
- 現配置(current configuration):時刻 \(t\) における変形後の形状.現配置内の点を空間座標 \(\boldsymbol{x}\) で表し,体積を \(v\),表面を \(s\) とする.
運動はこれら 2 配置の間の写像 \(\boldsymbol{x} = \boldsymbol{x}(\boldsymbol{X}, t)\) として表され,変位は \(\boldsymbol{u} = \boldsymbol{x} - \boldsymbol{X}\) で定義される.
配置に依存する記号規約(大文字/小文字)¶
物理量がどの配置に属するかを記号の大小で区別する.
- 基準配置に属する量は大文字で表記する(例:\(\boldsymbol{X}, \boldsymbol{F}, \boldsymbol{S}, \boldsymbol{E}, V, S\)).
- 現配置に属する量は小文字で表記する(例:\(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{\sigma}, \boldsymbol{e}, v, s\)).
- 第 1 Piola-Kirchhoff 応力 \(\boldsymbol{P}\) のように両配置にまたがる量は慣例的記号を採用し本文で都度断る.
- 微小変形理論では両配置の区別が消失するため小文字(\(\boldsymbol{\sigma}, \boldsymbol{\varepsilon}\))のみを用いる.
基準配置勾配と現配置勾配¶
空間微分をどちらの配置に対してとるかにより記号と意味が異なる.
- 基準配置勾配 \(\nabla_X = \partial / \partial \boldsymbol{X}\):物質座標に関する勾配.例:\(\boldsymbol{F} = \partial \boldsymbol{x} / \partial \boldsymbol{X}\).
- 現配置勾配 \(\nabla_x = \partial / \partial \boldsymbol{x}\):空間座標に関する勾配.例:\(\boldsymbol{L} = \partial \boldsymbol{v} / \partial \boldsymbol{x}\).
両者は \(\nabla_X = \boldsymbol{F}^T \nabla_x\) で関係づけられる.時間微分の規約(物質時間微分 \(\dot{(\cdot)}\))はテンソル記法と数学的基礎を参照.
運動の記述¶
運動写像と物質記述・空間記述¶
連続体を時刻 \(0\) における位置 \(\boldsymbol{X}\) をラベルとする物質点の集合とみなすと,運動は物質点 \(\boldsymbol{X}\) にその時刻 \(t\) での位置 \(\boldsymbol{x}\) を対応させる写像 \(\phi\) により
と表される.基準配置を初期配置にとる規約では \(\boldsymbol{X} = \phi(\boldsymbol{X}, 0)\) である.
独立変数の選び方により 2 種類の記述が区別される.
- 物質記述(Lagrange 記述):物理量を \((\boldsymbol{X}, t)\) の関数として表す.固体力学では基準配置が固定形状として与えられるため自然な選択となる.
- 空間記述(Euler 記述):物理量を \((\boldsymbol{x}, t)\) の関数として表す.流体力学で標準的に用いられる.
FrontISTR の構造解析は基本的に物質記述に立脚するが,Updated Lagrange 法では現配置を新たな基準配置として用いるため空間記述の量も併用する.
変位・速度・加速度¶
変位 \(\boldsymbol{u}\) は前節のとおり \(\boldsymbol{u} = \boldsymbol{x} - \boldsymbol{X}\) で定義される.大きさに関する仮定は置かず有限変形まで含めて取り扱う.速度ベクトルと加速度ベクトルは物質点を固定した \(\boldsymbol{u}\) の物質時間微分として
で定義される.
変形勾配と変形テンソル¶
変形勾配テンソル¶
有限変形の連続体力学で基本となる量が変形勾配テンソル \(\boldsymbol{F}\) である.これは基準配置の微小線分 \(d\boldsymbol{X}\) を現配置の微小線分 \(d\boldsymbol{x}\) に写す線形写像であり,運動写像の物質座標に関する勾配として
で定義される(\(d\boldsymbol{x} = \boldsymbol{F}\, d\boldsymbol{X}\)).無変形状態では \(\boldsymbol{F} = \boldsymbol{I}\) となる.\(\boldsymbol{F}\) はひずみや応力の定義,配置間の物理量の変換に広く用いられる.
体積変化比¶
基準配置の微小体積 \(dV\) と現配置の微小体積 \(dv\) の比を体積変化比 \(J\) と呼び
で与える.連続体としての可逆性から \(J > 0\) を仮定する.質量保存則は \(\rho_0 = J\rho\) と表される.
右・左 Cauchy-Green 変形テンソル¶
変形勾配 \(\boldsymbol{F}\) は剛体回転を含むため,変形そのものを表す尺度には剛体回転を除いた量を用いる.右 Cauchy-Green 変形テンソル \(\boldsymbol{C}\)(基準配置)と左 Cauchy-Green 変形テンソル \(\boldsymbol{b}\)(現配置)を
で定義する.両者はともに対称テンソルであり,同一の固有値(主伸び比の 2 乗)を持つ.超弾性ひずみエネルギー関数の主不変量はこれらを用いて与えられる.
ひずみテンソル¶
Green-Lagrange ひずみテンソル¶
基準配置基準のひずみ尺度として Green-Lagrange ひずみテンソル \(\boldsymbol{E}\) を
で定義する.基準配置における微小ベクトルの内積の変化を表す対称テンソルであり,剛体回転に対して不変,無変形状態で \(\boldsymbol{E} = \boldsymbol{0}\) となる.\(\boldsymbol{F} = \boldsymbol{I} + \partial \boldsymbol{u} / \partial \boldsymbol{X}\) を用いると
と変位勾配の 1 次と 2 次の和で表され,2 次項が幾何学的非線形性を表す.Total Lagrange 法では応力共役対 \((\boldsymbol{S}, \boldsymbol{E})\) として用いられる.
Almansi ひずみテンソル¶
現配置基準のひずみ尺度として Almansi ひずみテンソル \(\boldsymbol{e}\) を
で定義する.Green-Lagrange ひずみとは \(\boldsymbol{E} = \boldsymbol{F}^T \boldsymbol{e}\, \boldsymbol{F}\)(プルバック)で結ばれる.
微小ひずみテンソル¶
変位勾配が小さい場合(\(|\partial u_i / \partial X_j| \ll 1\)),Green-Lagrange ひずみの 2 次項は無視でき,さらに両配置の区別が消失するため勾配を空間座標で表した微小ひずみテンソル \(\boldsymbol{\varepsilon}\) に帰着する:
FrontISTR の線形静解析・固有値解析・周波数応答解析・線形動解析ではこのひずみ尺度を用いる.有限変形解析では Total Lagrange 法で \(\boldsymbol{E}\),Updated Lagrange 法では現配置基準の変形速度テンソル \(\boldsymbol{D}\) を用いる.